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取材9日目
昇はあれからも何度か連絡をくれていて、
実際僕よりもエリカ事件に興味をそそられているようだった。
昇に呼ばれてバーで待ち合わせをするのもすっかり習慣化した僕は、
昇を待ちながらバーテンダーと話していた。
「ウィスキー・ボンボンって知ってます?」
ふとこの間聞いた単語を出してみる。
調べたところ少し昔に大人のお菓子として流行っていたらしい。
バーテンダーは僕よりもだいぶ年上だったため、
知っているのではないかと思った。
「懐かしいなあ。最近あまり見かけないですね。」
「食べたことあります?」
「私はないですね。小さい頃近所の友達のお家に家族で招かれた時、お父さんが食べていました。見た目が綺麗だから女の子は特に食べたがる。それで妹がよく怒られていたものです。」
「お酒が入っているんですよね?」
「基本的にはお酒を封じ込めてあるものだったような気がします。どうやって作るのかは知りませんが。」
そう言ってお辞儀をし、隣の客の注文を聞きに行った。
「遅くなってごめん。何話してたの?」
急いで来たらしい昇は相変わらずお洒落で、
急に自分がこの場に似合わない感覚に陥り上着の前を閉めた。
「ああ。ウィスキー・ボンボン知ってるかって話。」
「ウィスキー・ボンボン?何それ。」
「ウィスキーの砂糖包み的な。大人のお菓子らしい。」
「それは美味しそうだね。」
息の上がったまま隣に座った昇は、珍しくカバンを持っていた。
「いつもカバンなんて持ってたっけ。」
「ああこれ、資料を持って来たんだよ。」
カバンからクリアファイルを取り出し、
その中に入っていた紙を出して見せてくる。
そこには地図と英語と数字の混ざったパスワードらしきものが載っていた。
「俺のお客さんにモデルさんがいるんだけど、その人に呼ばれてこの間たまたま六本木のクラブに行く機会があってさ。」
「お前そんなところまで商売広げてたのか。」
「まあ聞いて。そこで話してたら、お前のところの週刊誌の話が出たんだよ。そしたらどうもそのクラブとは別のあるクラブに金城エリカが出入りしてたらしい。捕まった時にも話題に出て、出入りしてた店では専ら有名人だったって。」
「でもクラブで一人一人が知り合うことなんてなくないか?」
「そう。俺が行った店は本人確認必須で未成年は入れない。ただ当の店は本人確認なし。中での行動も把握できない。それなのになぜそんなに有名人なのか。」
先ほどのバーテンダーが戻って来ていつものウィスキーのロックらしき液体を昇の前に置く。それを一気飲みして昇は興奮気味に言った。
「その店で有名な麻薬の常習者だったらしい。」
「麻薬?」
「そう。逮捕されたって話が出た時にはみんな顔面蒼白で逃げたらしいよ。足取りを掴まれないように。」
「でも本人はそんな記憶ないって。警察にも麻薬を使用したことはありますかって聞かれたけど、そんなことしたことないって言ってた。あれは嘘ってことか?」
「いやそれはわかんない。ただ有名だった理由はもう一つあって、エリカは彼氏と二人でVIPシートにいることが多かったらしいんだけど、いつの間にか彼氏が一人で来るようになって、それからエリカは一度も顔を出さなくなったって。それがちょうど大学二年生って言ってる時期と重なるんだよ。しかも不思議なことに、その彼氏も一人で来るようになった二年後に姿を消してる。気持ち悪くない?そのクラブではエリカは麻薬を断ち切ったんじゃないかって言われてたらしい。一人で来た彼氏に聞いてもエリカの話をしたがらなくなってたってさ。元々すごく美人だからって別れたら手を出そうとしてた輩が大勢いたらしいんだけど、みんな大きな魚を逃したって彼氏を恨んだらしいよ。」
紙から目を離し昇を見ると、これまで見たことがないほど目を輝かせていた。
「そのクラブ、まだあるのか?」
昇はニヤッと笑って紙を指で叩いた。
「それがここよ。いわゆる紹介制の店で、入り口でこのパスワードを入れれば入れる。」
僕よりも興奮気味な昇に圧倒されながらも、
僕自身も新たなネタが生まれたことへの興味を抑えきれなくなってきていた。
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