金髪が似合わない男とキャンディー少女

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金髪が似合わない男とキャンディー少女

 なんで警視庁?   香川県警やなくて警視庁?   警視庁って東京やんか。   刑事ドラマやサスペンスドラマでしか警視庁なんて単語聞かんな、と他人事のように思っていると仁生はあることを思い出した。  つい先ほど、職場に出勤して間もなく『東京に行ってくれんか』と三宅部長が渋い顔をして言っていたのだ。  警視庁も東京にある。  偶然一致している。  偶然、なのか。  必然、なのか。    いやいや、待て待て。  警察にお世話になるようなことなんかしたことないで。  ましてや、警視庁って?  ありえんやろ。  仁生が微笑みながら、加賀に声をかけた。 「何かの間違いでは? 俺……僕は何も悪いことなんてしてませんけど」  加賀は、律儀に一人称を変えた仁生に、真面目だね、と幼い子供を見るように微笑んだ。 「間違ってないよ、藍沢仁生くん。一緒に来てもらおう」  淀みなく言い切った加賀に仁生は肩を強く掴まれる。  本当に連れて行かれるのか、と仁生は助けを求めるように三宅部長をみやる。  だが、三宅部長は何故かおろおろしていた。  待ってくれ、三宅部長。  おろおろしたいのは俺の方やけん。  不意に何か思い立ったように加賀が立ち止り、仁生の肩から手を離した。 「そうそう、紹介しないと。仁生くんより年下なんだけど、先輩になるかな。こちらは、ナナセアカリ」  これがアカリの名刺だよ、と再び懐から名刺を取り出した加賀に渡される。 【七星 灯里】  七つの星が集まった灯りの里。  すごく素敵な名前だと仁生は思った。  宇宙のどこかにある原っぱに、七つの星が幸せそうに寄り添っている光景を想像して仁生の心の中が暖かくなる。  仁生が、貼り付けた笑みではなく感情のままに微笑むと加賀が少女――灯里に注意を促した。 「灯里、フードを脱がないと失礼だよ」  加賀の、お兄ちゃんのような優しい語調に反応して、灯里は瑞々しく白い手でフードを軽く捲る。  すると、頬を赤く染めた灯里が顔が露わになった。  ころんとした丸い瞳、ふっくらとした桃色の唇をした愛らしい少女だ。  灯里は、口に咥えていた棒付きキャンディーをかぽっと出して恥じらうように唇を開いた。 「…………よろしく」  高くもなく、低くもない穏やかでおっとりとした声音を小さく響かせた。  灯里がぺこりと頭を下げた拍子に、緩やかに波打つ透き通ったピンク色の髪の毛がさらりと流れ落ちる。  おとぎの国はこちらですよ、と誘うような甘い色をしていた。  灯里がすぐにおとぎの国の色をした髪の毛を手でパーカーに押しやってしまい、仁生は心の中で少しばかり惜しく思う。  再びキャンディーを咥えた灯里はフードを目深に被ってしまった。          
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