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人とは違う
仁生は、真顔だと人相が悪い。
悪すぎると言った方がいいかもしれない。
瞳が小さすぎるひどい三白眼で、尚且つ眉毛も薄い。
毎朝、洗面所の鏡に映る自分の姿にいつも思う。
もう少し瞳が大きければ違っていたのに。
幼い頃から人相が悪くて、顔が怖いと当たり前のように言われ続けてきた。
背後霊みたいだとか死神だとか、ヤクザの子供だろとか冗談で言ってくるクラスメイトは少なくなかった。
小学校四年生のときに授業の一環で低学年の生徒とペアを組んで行事を行ったが、『怖い』と泣かれてしまったことがある。先生も仁生を気遣ってペアを変えることができずに先生と三人でペア活動を行った。
余計に目立ってしまい、好奇の視線が突き刺さる。仁生はペアになってくれた生徒に対してずっと申し訳なく思っていた。
そして、高学年の生徒からすれ違い様に奇妙な動物を発見したかのように指を差されて仁生は気付く。
自分の顔は、他人の『愛せる』基準を満たしていない顔なのだと。
目が大きくて丸くて『可愛い』。
唇がふっくらしていて『愛らしい』。
スポーツ万能で勉強もできて『かっこいい』。
しかし、俗にいう表面上の『可愛い』部位を持って生れなくても、愛されている人なんてたくさんいる。
だが、自分の顔面は『愛せる』基準を満たせていない。
ある日、友達に『ずっと笑っとったらええやん』と何気なく言われて仁生はいつも笑うことに決めた。
辛くても悲しくても……何もなくても微笑んだ表情を貼り付けることにした。
そうすると誰も泣かなかった。
怯えていた女子たちは、柔和な表情を浮かべると話かけてくるようになり、仁生の顔面を憐れんだ大人たちは機嫌よく褒めてくれた。
いつも微笑んでいることで他人からの『愛せる』基準を満たせたのだ。
それならば、他人の『愛せる』基準とは?
『可愛い』『愛らしい』『かっこいい』ではない。
『不快』か『不快ではない』かだ。
自分の顔は、他人に恐れられる。
怖いという感情は不快に思うのと似ている。
あぁ、自分の真顔は他人に不快感を与えてしまうのだ。
そう仁生は中学生のときに自分の顔面に結論付けた。
どんなことがあろうとも、真顔にならないよう笑顔の練習をし続けて現在に至る。
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