東京へ

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 高松空港から羽田空港までは約一時間ちょっと。  実家暮らしをしている仁生は、研修で東京に行くことになったのだと飛行機に乗る前に母親に電話で伝えた。  連絡をせずに晩御飯を食べに行ったりすると母親は激怒するのだ。  家事が苦手な母親は晩御飯を作るのが面倒くさいらしい。なので、仁生は友人と急遽ご飯を食べに行くことになったときは逐一実家に連絡を入れるようにしている。  買い物に出かける前だったためか母親は『そうなんや、気を付けてな』と苛立つことなく淡白な反応を見せた。  嫌味の一つくらい言われる覚悟をしていた仁生は心の中で安堵した。  母親のスイッチが入ると、長いのだ。  もしもスイッチが入ってしまっていたら飛行機の搭乗時間に間に合わなかったかもしれない。  無事に飛行機に搭乗できた仁生は隣でアイマスクをつけて眠りこける加賀を見やる。  急に決まった研修であるはずなのに、羽田行の航空チケットは自分の分まで用意されていた。  おそらく、この刑事と三宅部長は顔見知りだ。  いつからかはわからないが、二人の間で自分を東京へ行かせるやりとりがあったのだろう。  百歩譲って東京研修はいい。  だが、研修場所がおかしくないか。  洋服店の社員が警視庁に研修?  警視庁でなんの研修するんや。  眠っとる場合ちゃいますよ、加賀さん。  説明してほしいんですけど。  気持ちよさそうに眠っている加賀を起こすこともできず、眉尻を下げて微笑んでいると仁生は視線を感じて振り返る。  すると、通路を挟んだ窓際の席で座る灯里の丸い瞳と目が合って仁生の心臓がどきりと高鳴った。  
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