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コーヒーを全て飲み干すと、アンドレはようやく口を開いた。
「またトバ湖に来ることはあるの?」
「わからないな・・・」
僕はもう二度と来ることはないだろうと思いながら、そう答えた。
「もしさ、次にここへ来ることがあったら、お土産にそれと同じサンダルを買って来てよ。またいろいろと力になるからさ!」
それは僕にとって、最も聞きたくない頼みごとの一つだった。
いきなり怒鳴り散らしても許される場面だったが、僕は自分でも驚くほど冷静に言葉を返した。
「それは不可能だよ。だって、その頃お前はもうここには居ないだろうからね」
「そうだったね・・・」
虚を衝かれたアンドレは、珍しく計算が狂ったという風に苦笑した。
アンドレの肩越しに、湖の上を黒煙を吐き近づいて来る定期船の姿が見えた。
もう時間はなかった。
これで終わりだと思い、僕はアンドレに最後の問いかけをした。
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