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店先に停めたバイクの横に佇むアンドレにそう言い残して、僕は船に乗り込む人の流れに加わった。
船へ渡された板子の上で立往生した時、一度後ろを振り返ったが、人波で彼の姿はもう見えなくなっていた。
もう行ってしまったのだろうか?
僕は来た時と同じ二階デッキの前寄りの見晴しの良い席を確保し、そこへ荷物を下した。
すぐにエンジンが唸り声をあげ、排気ガスの匂いが鼻を突くと、定期船はゆっくりと後ろ向きに動き始めた。
僕は思い出深いアンバリータの港を、この眼に焼き付けようと、手スリにもたれながら島の方を見ていた。
見覚えのある褐色の砂浜に、丸太で造られた漁師の小舟は一艘も見当たらなかった。
皆、漁に出ているのだろう。
今日はどれほどの小魚がニットの男の舟底を埋めることになるのだろうか?
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