トバ湖の虹

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 その場で彼を裁くことは、その気になれば簡単なことだった。しかし、この世の中は一人の少年を安易に吊るし上げられるほど、正義や理性で満ちあふれているわけではなかった。  僕の目から見れば、世の中はむしろ、頑に変わることを拒みつづけるものと、諦めで誰も感じることの無くなった理不尽が、その大半を支配しているように思われた。  そこには多くの人間の運命を予め決定づけたヒエラルキーを体現する不動のピラミッドがそびえ立っている。  その中でアンドレは罪を重ねながらも、変わること、伸し上がることを強く指向していた。  そして、僕はそんな彼の姿に、自分が遠い過去のどこかで心を奪われ、今もなお追い求めているモノの影を見たのだ。
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