1話・エンプーサさんの憂鬱

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「はぁ……」  鏡に映った自分の姿を見る。  確かに地味だと、自分でも思う。  眼鏡をやめてコンタクトにしたら、すこしは綺麗になるのだろうか  この真っ黒な髪の毛がブロンズに輝く美しい髪なら印象は変わったのだろうか。  いや、ブロンズヘアじゃなくても、せめて明るい色なら今よりももっと人に好印象を与えることが出来るのだろうか。  そしたら、こんな地味で暗い私でも好きになってくれる人が現れるのかな……。 「……何を考えとるんやろ、ウチ」  駄目だなあ。  昨日、彼女たちに言われたことを今も引きずっているみたいだ。   添い遂げてもいいと思える男性……そんな人、いるのだろうか。  お互いに大切に想い、想われるような人。地味で暗い私でも笑顔でも受け入れてくれるような人。  ……いや、きっといないよね。  きっと、ずっとこのまま一人で男性経験も、ましてやキスすらする事が無いままここで消えていくのを待つだけの人生なんだろうな。  まぁ、それでもいいかな。  顔を洗い終わって、目もすっかり醒めてきた。  さて、昨日のことを考えるのはもう止めよう。   今日は、昨日街で買った雑誌を読んでゆっくりしよう。  窓際にある椅子に腰を掛けて雑誌を広げる。  読書のお供に温かい紅茶を用意した。最近お気に入りのブランドだ。  普通の紅茶よりも断然香りが良く、後味もお茶の爽やかさがスッと喉を通りぬけていく。  シュガーを1つ入れ、スプーンでゆっくりかき混ぜる。  さて……今日も楽しい読書の時間だ。  せめてこの時間だけでも、素敵な恋をしよう。  現実では恋をすることのないだろう私の、唯一の楽しみ。  想像の中では何にだってなれる。  雑誌の中では、地味な主人公の女の子が素敵な男の子にプレゼントを貰っていた。  蹄鉄のネックレス。  いいなぁ、幸運のお守り。  いつか私も蹄鉄のネックレスとまではいかなくていいから、素敵な男性から何かをプレゼントしてもらいたいものだ。   紅茶を口に含みつつ、ページをめくってゆく。  ゆったりとした至福の時間だ。  この世にこれ以上の幸せな時間は無いだろう。  本気でそう思っていた。  数日後、運命のあの人に出会うまでは。
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