流れ星を信じて

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 かく言う私も初めから擦れていたわけではない。夢と言ったからにはサッカーに真剣に取り組んでいたし、絶対になるとは言わないまでもサッカー選手に憧れを抱いていた。部活にもほぼ毎日顔を出し、厳しい練習に耐えてきた。  しかし私の部活には怪物がいた。その子は父親がJリーガーで、小さい頃からサッカーボールに触れてきたらしい。例に漏れず才能があり、顧問も隠す素振りも見せずその子を贔屓した。一方私たち平部員は平凡な練習に加え、玉拾いやコート整備など技術には何ら直結しない、裏方の仕事にも従事せねばならず、その間にも怪物は特別練習を許され、力の差はますます広がるばかりだった。  私はここに至り悟りを開いた。  生まれた時の環境で将来は決まっているのだ。努力では埋めようのない差はたしかに存在する。そう考えると真面目に夢を追いかけることがバカらしく、サッカー選手になることなどどうでもよくなってしまった……。  仕事が終わると伸びをして、チラリと時計を見遣る。そろそろ迎えに行かねばならない。  幼稚園はとっくに閉園しているが、帰りは義母の家で預かってもらうようにしている。とはいえあまりにも遅くなるわけにもいかず、私は仕事を切り上げることにした。  もちろん愛娘はかわいいが、子育てはかわいいだけではない。今の私には大変さが勝る。本来母親がやっていたことが一気にのしかかって来たのだから無理もない。義母の家へと迎えに行こうと私は重い腰を上げた。
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