流れ星を信じて

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 「(かね)金金。はい3回言えた~」  小学校の林間学校で夜に星座を観察する時間があった。その時サッと一つの流れ星が降り、それを見た女子たちが騒ぎ始めた。そしてお調子者の男子たちが囃し立て始める。 「3回も言えるわけないじゃん」  そこからやんややんやと言い争いに発展し、我々が開発した最強の呪文がこれだ。 「でも流れ星に気づいてから言い始めても遅いよね。1回言えるかも怪しいよ」  それから誰かが 「じゃあずっと言ってればいいんじゃね」  と天才的な閃きをし、みんな金金と言い続けていたが、流れ星が再び降ることはなかった。  「流れ星が消えるまでに3回願いを言うと、願いが叶うんだよ」  美菜を寝かしつけるために、童話を読んであげていた。読み終えると私には何の感慨もなく、私自身がウトウトとし始めていた。 「どんな願いでも叶うの?」  寝かしつけるつもりで読んでいたはずが、美菜のほうはむしろ目を輝かせて尋ねてきた。  やはり子供にとっては新鮮なのかと、私も教わった通りに教えてあげた。それから私は大きな欠伸をすると、美菜とともに眠りについた……はずだった。  どれくらい経ったのか、私は尿意を催し目を覚ました。すると隣にいるはずの美菜がいない。  私の顔から急速に血の気が引き、心拍数が一気に跳ね上がった。 「美菜! 美菜!」  と叫びながら家の中を探し回るが、全く気配がない。一通り部屋を調べたあと、玄関に美菜の靴がないことに気がついた。私は考えるまでもなく家を飛び出した。  アパートの通路に躍り出ると、3階なのでとりあえず上から全体を眺め回してみた。すると意外にも美菜はすぐに見つかった。真下のベンチに腰かけている。 「美菜!」  大声で呼びかけてから私は一目散に階段を駆け下りた。 「美菜! 何やってんだ! こんな夜中に一人で出歩いちゃダメだろうが!」 そんなにきつく叱るつもりはなかったのに、安堵のせいか、思いのほか美菜を強く揺さぶっていた。  私の鬼気迫る形相は、美菜のスイッチを入れるのに十分だった。途端に美菜はワンワン泣き出し、こっちがあたふたするハメとなった。  近所迷惑を考えて優しく宥めすかしたあと、私は美菜に理由を聞いた。 「だって、お母さんに早く帰ってきてほしくて……」  目を背けていた事実を愛娘の口から聞き、私は口をパクパクさせるしかなかった。結局のところやはりそれなのだ。いくら行儀のいい子だと言っても、こんな幼い子が母親がいないことに耐えられるはずがない。しかしこれまでおくびにも出さず堪えてきたのだ。私はそれを思うと何ともやるせない気持ちになった。 「そうだよね。美菜は偉いよ」  美菜の頭を撫でながら、私はそれだけ言うのに精いっぱいだった。
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