流れ星を信じて

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 人生で2番目に緊張した帰り道、彼女は公園に立ち寄ろうと提案した。都会のビルやマンションに囲まれてきた私にとって、そこは物静かでどこか気持ちの安らぐ公園だった。もっとも一世一代の勝負を決めてきたあとだからかもしれない。 「いいでしょ、ここの公園。周りに何もないから、綺麗な星空が見えるって有名なの」  ふぅとベンチに腰掛けた私に、彼女は目をキラキラ輝かせ話しかけてきた。 「うん、でも今の僕に情緒を感じる余裕はないかな。緊張の糸が一気に切れたというか……」  ぐったりしている私に、彼女は微笑みを向けてきた。 「お疲れ様。でも、ほら、これで一緒になるって正式に決まったわけだからさ、これからよろしくお願いしますね」  彼女は照れくさそうに、改まって挨拶をしてきた。  それから少し気恥ずかしい空気が流れたあと、2人は各々に物思いに耽り、ただ空を眺めていた。 「あ、流れ星」  突然彼女は指を指した。流れ星は指を指している間に消えてしまう。私はそのことを知っている。 「じゃあせっかくだからお願いしようか。3回言うのは無理だけど、言って損はないでしょ」  神頼みなどいつからかしなくなっていた私だが、さすがに今日はこれからの前途を祝して、2人の幸せをお祈りしたかった。 「なんてお願いしたの?」  目を瞑って祈りを捧げてから私が切り出した。彼女は相変わらず無邪気な笑顔で見つめ返してきた。 「もちろん、私たちと子供が幸せでありますように、よ」  私は驚かされた。所詮私は2人のことしか考えていなかった。しかし彼女は先を見据えている。一本取られたというより、私はこの妻になる人を永遠に愛し、そして子供を必ず幸せにしようと固く心に誓った。
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