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早朝、朝日が昇る前から私たちは出漁の準備を始めた。当然最初から全て狩谷さんを手伝い、網の張り方から船の操縦まで全てを学び取るつもりだ。あと二年で、私は漁師になる。この生活サイクルにも今から慣れておかねばならない。
出航して数時間後、コンパスと海図を見比べながら狩谷さんは船を止めた。随分遠くまで来た気がした。
「ここだ。ここが例の海難事故のあった場所だ。お父さんは今もここで眠っている」
私は手すりから身を乗り出し、海底を眺めようとした。しかし群青色の海は底を見せてはくれない。
しばらく暗い海を見つめたあと、花束を一つ投げ入れ、合掌した。
大して記憶にない父に思いを馳せる。
「お父さん、俺も立派な海の男になるよ。見守っててね」
漁師の子は漁師。やはりその血は抗えない。
それから私は狩谷さんに向き直った。
「お父さん、大学に行かせてくれてありがとう。大学で学んできた知識は必ず漁に役立つと思うよ。海の生態、気候、海洋工学。俺は科学的に漁を発展させていくよ。漁師たちが少しでも安心・安全に海に繰り出せるようにね」
漁師は基本、力仕事だが、私は頭脳も用いて海と戦っていこう。そういえばここに来るまでに船酔いをしなかった。記憶と共に海の男としての本能が目覚めたのであろうか。いや、私はたとえ漁師にならなくとも、きっと海の男になっていただろう。なんせ、漁師にならないとごねつつも海洋大学になんて在籍しているのだから……。
海の男たちの気性は荒いが、優しさも持ち合わせている。大学進学を認めてくれた父、自分の命を投げ打って他人の命を生かした父。二人に誓って私は漁師になる。
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