漁師になる

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 港町ゆえに友達も漁師の子がほとんどだ。同級生も親も大体顔見知りで家族ぐるみ、地域ぐるみの付き合いが当たり前だった。  周りが皆中学校、あるいは高校卒業と同時に働くのが当たり前の中、私だけはわがままを言った。 「大学へ行きたい」  もちろん父から猛反発を食らったが、必ず漁師になることを条件に渋々承諾を得た。田舎でろくな教育も受けられなかったが、何としても家を出たい熱意と、それなりの努力で何とか志望校に滑り込むことができた。しかし私は一人暮らしをするにあたり、他にも目的を持っていた。  きっかけは子供の頃までさかのぼる。 「お前、父ちゃんと似てねえな」  先に述べた通り漁師仲間は皆顔見知りだ。村八分になろうものなら生きていけないため、関係にはみな敏感で、細心の注意を払っていた。しかし私の覚えている限りいじめ等があったわけではない。  漁師は気性は荒いが、ひねくれ者が大嫌いである。よく言えば真っすぐで、悪く言えば愚直だ。その点では他人に無関心な都会人や、陰湿な田舎よりは温かみのある人間が多いのかもしれない。  しかし幼い頃に何度か言われたこの言葉に、何か違和感を感じ続けていた。言った同級生も悪気があったわけではなかろう。ただ単に思ったことを口にしただけである。  気がかりで父に尋ねたこともある。 「俺、本当に父ちゃんの子供?」  子どもは器用ではない。時に残酷なまでに率直で、この時の私も多分に漏れず、むき出しの言葉で父に尋ねてしまった。しかし父のほうも狼狽(うろた)えることなく、子供の目にはまったく嘘をついているようには見えなかった。
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