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海の男は生まれた時から宿命を背負っている。強靭な肉体に荒い気性、さらに頑固者で船上ではまさに戦場のごとく大声を張り上げ漁をする。そして文字通り命懸けで海へ繰り出し、仕事に誇りを持っている。
海の男の息子もまた、漁師になることを運命づけられている。しかし私はその運命から逃れたくて、何とか大学へは行かせてもらうところまでは漕ぎ着けた。その2年目、私は今懐かしい港町に帰省していた。
潮の匂いで満ち満ちた港町。波止場には大小様々な船がボラードに繋がれて雑然と並んでいる。エメラルドグリーンの海ならともかく、群青色で暗い海は、私には殺風景な印象しか与えない。
「船酔いするんだよ、俺は。船酔いして漁師が勤まるかよ」
家の門をくぐって開口一番、家業を継ぐ話を持ち出された。来年からは就活が始まる。進路について話題が持ち上がるのは当然だった。しかしそれにしても早い。休む間すら与えないとは。
「大学に行かせるとき、約束しただろ。忘れたんじゃねえだろうな。漁師の子が漁師にならなくてどうするんだ」
父としては念を押すつもりだったのだろう。しかしこれまでと一変して私が漁師になる気はないと告げたので、激昂したというわけだ。
「漁師なんて時代遅れで儲からないし魚臭いし。サラリーマンの方がよっぽど楽で儲かる。自分の仕事くらい自分で選ばせろよ。親父は古いんだよ」
私も都会の荒波に揉まれて少し垢抜けていた。生意気に理論を武装している。
「ちょっと都会に出てからって、一丁前な口利くようになったなあ。まだ社会の荒波にも揉まれたことのねえ青臭いガキが、サラリーマンの方が楽だってか。世の中に楽な仕事なんてねえんだよ。お前みてえなバカは都会の荒波より海の荒波に揉まれていたほうがよっぽど有意義ってもんよ」
自分は漁師以外の仕事をしたことがないだろうとツッコミたくなったが無駄である。漁師とは頑固なものだ。
「とにかく、漁師んとこの息子は漁師になる決まりなんだよ。周りもみんなそうしてる。お前がどうしてもって言うから折れて大学だけは行かせてやったのに。恩を仇で返すたあ。その金は誰が出してやってると思ってんだ。そんなつもりなら今後一切出さねえぞ」
父は手で払う仕草をした。やはりというか、そう言い出すことは想定済みだった。なんと単純なことか。そして教養がない。
「その話に触れていいのかい? お父さん」
急に声色を変えた私を見て、父は落ち着きを失ってソワソワし始めた。 表情は強張り、私の言葉を待っていた。
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