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「梨音!!」
息急きをきる若い女性の声が、愛らしい存在の名を呼び、走りながら近付いて来る。
目を隠されていた梨音の顔は、ぱっと綻んで両手を嬉しそうにばたばたさせた。
あまりの激しさに、紫澤も思わず手を放してしまう。
すると、待ち侘びていたように梨音は駆け寄ってきた女性の前へと駆け出す。
「ママ!!」
「梨音!!」
女性が大きく開いた両手に、迷いなく梨音は飛び込んでいく。
同時に俺は、この女性が翔琉と過去に親密過ぎる関係を築いた女性なのか、と察する。
「もう梨音、あれ程よそ見はダメだって言ったじゃない」
“ママ”と呼ばれた女性は、梨音を腕の中へ愛おしそうに抱き締めると力強く頬擦りをした。
「ママ、ごめんなさい」
大きく項垂れ、大きなグレーの瞳に涙を浮かべ謝罪の言葉を口にする梨音は、本当に天使のようだ。
母の方もまた、聖母マリアのような慈悲深い美しさを持つ女性に見える。
女性の瞳は虹彩がブルーグレーに近かったが、この二人が明らかに血が繋がっているだろうことは一目瞭然だった。
「龍ヶ崎さん、今日は仕事外までウチの梨音がご迷惑をお掛けしまして……」
「いえ、お気になさらないで下さい。梨音君とも距離が縮まった証拠だと思うので」
深々とお辞儀をする女性に、珍しく翔琉は愛想良く受け答えする。
二人のやり取りをベンチに座りながら眺めていた俺は、一瞬言葉を失う。
あれ、これってもしかして……。
その、まさか……、
俺の――。
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