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父の日が数日後に迫った金曜の夜七時。 バイト先の高級カフェの制服である、白のワイシャツに黒のエプロンとスラックスを俺は身を纏いフロアへ出ていた。 食器の片付けの為、オープンキッチンへ来た俺は、その壁に掛けられている時計に何気なく視線を向ける。 あと一時間で上がりの時間だ。 こんなにも早い時間帯に上がれるなんて、まだ馴れないな。 この春、俺は無事に大学二年へと進級。今年度、前期に受講している講義の関係で、バイトが入れる時間帯も幾分か変わっていた。自己都合ではあったが、そのシフトにまだ慣れていない俺は、時折戸惑ってしまう。 自分の都合だが何を戸惑うのか、って。 それは――。 「早い時間帯のシフトだと、龍ヶ崎さんともバイト終わりに合えないでしょ?」 三十代前半のおっとりした癒し系の副店長は、まるで俺の心を言い当てたかのように、的確な言葉を背後から投げかける。 確かに十時でバイトを上がっていた頃は、その時間に合わせて仕事終わりの翔琉が俺を迎えに来ることも多々あった。 だが時間帯が変わった今、後ろに押していた連続ドラマの撮影のせいで翔琉は仕事を早く上がることができず、最近俺は独り都内外れにある実家へと帰宅することが多い。 俺たちの関係をおおよそ知っている店長とは違い、副店長には何も話していない。 一体、どこまで知っているのだろうか。返す言葉に窮した俺は、沈黙してしまう。 すると偶然、キッチンから遠く入口の方で聞き覚えのある男の声が俺を呼んだ。 来客だった。 俺は「はい」と返事し、副店長から逃げるようにしてその場を離れる。
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