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遠目から見ても一目で育ちの良さが分かる来客者のその男は、上等な仕立てにより、高身長で鍛え上げられた体躯が美しく強調されたネイビーの清涼感あるスーツに、同色のストライプが入ったシャツ、年齢よりも落ち着いて見えるブラウンのタイを身に付けていた。 下手したら野暮ったく見えてしまう七三に分けられた黒髪の重い前髪も、精悍な顔立ちだが物腰の柔らかさ故、そのマスクを甘く見せていた。 間違いなく就職した先でも、大勢の女性ファンを作っていることは想像に難い。 「紫澤(しざわ)様、いらっしゃいませ。お待ち申し上げておりました」 後を追ってきた副店長は、にっこりと業務用の笑みを見せると、その男の名を俺より先に口にした。 紫澤(しざわ)様こと、紫澤(しざわ)玲凰(れおん)。 俺の四つ上の大学の先輩で、日本五代商社の内の一つ紫澤物産の御曹司で、次期社長候補。留学先から帰国したばかりで、今春より父親が社長を務める会社で働き始めていた。 また、その年の大学の男性一位を決めるミスターキャンパスで優勝したこともある、肩書きだけでなく見た目も実力も申し分ない、誰もが羨む男だ。 同時に過去、可愛い要素が何処にもない男の俺を、恋人である翔琉同様「好きだ」と告白してくれたもの(、、)()()な男でもある。 勿論、俺には既に翔琉との恋が始まっていた為、お断りをしていた。 紫澤も紫澤で、その直後タイミング良く海外へ留学してしまっていた為、今年の三月に彼が帰国するまですっかりお互い疎遠となっており過去のこととなっていたのだが。
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