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すると、先程紫澤を迎え入れた入口に、間髪入れず新たな来訪者を告げるドアの開く音がする。 紫澤の時とはまた違う、振り向かなくとも分かる圧倒的なスター性がある華やかな存在感を左後方へと感じた。 微かに漂う、いつも俺を心地好く包むムスクの香り。 純粋な日本人とはまた違う、見る者全てを虜にしてしまうグレーの瞳と美貌を持つ、百八十を超える高身長でモデル体型の男。 超人気俳優であり俺の恋人、龍ヶ崎翔琉が訪れたのであった。 思わず紫澤も眉を顰めてしまう男の登場に、一瞬俺は浮き足立つも、危惧していた状況が起きてしまい、振り向くにも振り向けないでいる。 「高遠君」 セクシーで低い声が、わざと俺の苗字をそこから呼ぶ。 特に、心苦しいことは何もしていない。 紫澤とは、客と店員……それだけだ。 だが、ドキリと俺の心臓は大きく飛び跳ねてしまう。 普段は何処へいても名前で俺を呼ぶ男が唯一気を遣い、苗字で呼ぶ場所。それが俺のバイト先である、この高級カフェであった。 だから、苗字で呼ばれたとしても気にすることはないのだが……。 「あなた達、ケンカでも……しているんですか?」 紫澤から指摘される程に、翔琉の口調には棘があった。 間違いなくその原因は、紫澤なのだと思っていたが、様々な意味で軽率にそれを口にすることができない。そう判断した俺は、曖昧に微笑みその場から立ち去る。
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