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キッチンへ逃げるようにして駆け込んだ俺の後を、翔琉は後追いする。そして、先客が誰もいないオープンキッチン前のカウンター席、一番奥へと腰掛けた。 キッチンの奥にあるウォーターサーバーからガラスのカラフェへ水を汲む俺を、じっと翔琉は凝視している。 手馴れたその作業も、射抜くようなグレーの瞳に見つめられるとその指先に緊張を帯び、手間取ってしまう。 全く、翔琉……不機嫌にも程があるだろう。 口にすることはできない悪態を、こっそり俺は心の中で呟く。 更に、そこへドアの開く音がした。 さすがにもう来客が知人でないことを、俺はこっそり心の中で祈ってしまう。 否、さすがにもうここへ来ることのできる、そんな知人はいないと思っているのだが。 「いらっしゃいませ」 どうやら副店長が接客を受け持ったようだ。軽く瞠目した様子が聞こえた。 入店したばかりの客は何も言わず、代わりに軽やかな足音だけが店内へと響く。 ととと、と歩く音。 どうみてもそれは大人のものではなく、小柄な……もっというと、幼子のそれのような足音であった。 オープンキッチンの奥にいる俺からは、幾ら視線をその足音へ向けても視界の何処にもかすらない。 同伴者の気配が一切ない来訪者に、俺は疑問を感じる。 翔琉の視線に緊張を感じていたはずの俺だったが、自然と意識がそちらへと向いてしまう。 すると、その足音はオープンキッチンのカウンターの前でピタリと止まる。次の瞬間、可愛らしい高い声が耳を疑うような言葉を発し、俺を硬直させた。 「翔琉パパ!!」 無邪気なその声に、間違いなくその場にいた全員が息を呑み、時が止まったような気がした。
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