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3
誰もがぎこちない空気の中、最初に沈黙を破ったのは意外にもあの男だった。
そう、俺の恋人で“翔琉パパ”と呼ばれた男だ。
「梨音、どうしてここに?」
翔琉がそう言って、自ら膝の上に軽々と抱き上げたのは、肌が抜けるように白くライトブラウンの髪色を持つ四、五歳くらいの男の子だった。
その色素の薄さは、もしかすると翔琉と同じハーフやクォーターではないだろうか。
「翔琉パパがここへ入って行くのが見えたから!」
首を捻り、愛らしい仕草で喋る“梨音”と呼ばれた男の子は、俺と違って天使にしか見えない。あの翔琉が、俺以外にも蕩けるような笑顔を見せているのだから。
――と言うか、そもそも翔琉を“パパ”と呼ぶその可愛い子は一体……
一体、誰なんですか?
独りパニックを起こしていた俺は、カラフェをキッチン台へ置く手がつい乱暴となり、ドンと不適切な雑音を立ててしまう。
「高遠君……」
小さな来客者の様子をこちらまで窺いに来た副店長が、キッチン内で荒ぶる俺へ心配そうに声を掛ける。
だが、翔琉はその様子に気が付くどころか、目の前の“梨音”君にメロメロの骨抜き状態にされ、俺のことが見えていないようにも思えた。
そもそも、翔琉は独身のクセに自分のことを“パパ”と呼ばせるなんて……。
むむっと唇を思わず噛んでしまった俺は、はっと我に帰り、一瞬でも幼子へと嫉妬してしまった自身を恥じる。
そこへ騒ぎを面白がって近付いて来た紫澤が、俺の不安を煽る一言をポツリと告げた。
「あ……この男の子、龍ヶ崎翔琉と同じ目の色が綺麗なグレーですね」
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