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紫澤のその言葉を聞いてしまった俺は、その後もう一切の記憶はなかった。 ただ、分かるのは翔琉に“裏切られたかもしれない”という悲しい感情と、公園のベンチへ座る俺の隣りに紫澤がいたということだ。 しかも、いつの間にか俺は翔琉を助けたカフェに程近い公園のベンチへ訪れていたようだった。 「龍ヶ崎翔琉にまさか子どもがいたとは、驚きでしたね」 混乱した俺を慰めるように、紫澤は右肩に手を回していた。いつもであればそれを拒否をしていたはずだが、それすらもできない程、俺は酷く憔悴しきっていたのだと思う。 何故今まで、俺はそんな大事なことに気が付かなかったのだろうか。 多種多様な家族の在り方が提唱されている昨今、必ずしも、独身イコール子どもがいない。 そんな概念は、俺と出逢う前まで女関係が派手な翔琉に一番そぐわないことくらい、少し考えれば分かるはずなのだが……。 「……何で、俺にそんな大事なこと……言ってくれなかったんだろう」 独り言のように俺は呟き、さめざめと泣いた。 俺のこと、散々“好き”だとか“愛してる”とか言って人の気持ちまで奪ったクセに、本当はとうの昔に他所で子どもを設けていた……? 結局、男の俺は愛人扱いだっていうのだろうか。 否、翔琉に限ってそんなこと――。 次第に声を上げ泣く俺に、紫澤は優しい口調で言葉を投げ掛けた。 「高遠君、僕が傍にいますよ。僕でしたら、確実に独身ですし、やましい過去もないです。決してあなたを悲しませたりはしません。もう一度、僕との恋……考えてみませんか?」 そう言うと、紫澤は自身の逞しい胸の内へ俺を強引に抱き寄せる。
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