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それでも俺は、翔琉以外の腕に絆されることは絶対に嫌だと感じた。 「残念だが、その選択肢は一生ない」 紫澤の腕の中から俺が全力で逃れるのと、地の底を這うような剣呑な雰囲気を纏った低い声が頭上から降るのとは、ほぼ同時であった。 小さく瞠目した俺は、声のする方へとゆっくり顔を上げる。 「龍ヶ崎翔琉……」 (おもて)では平静を装っている紫澤のその声に、僅かだが明らかな動揺が走るのが分かった。 「何故ならば、颯斗にとって一番の幸せは俺の腕の中でしか生まれないと――既にそう俺が決めているからな」 翔琉以外の男に言われたら気持ち悪い歯の浮く言葉に、鬱々としていたはずの俺の心は次第に晴れていく。 だが、その腕に抱かれた小さな愛らしい存在を視界に認め、俺の心の奥底は、言葉では言い表せない、切ない感情で静かに揺れた。 翔琉の腕に抱かれた――その可愛い、 可愛い、その子は一体? 複雑な想いが交錯する俺をよそに、翔琉の腕に抱かれた、まだ穢れを知らない尊いグレーの瞳が、無邪気に疑問を口にした。 「翔琉パパのおてて……しあわせ、うまれるの?」 尊い存在は、つぶらな瞳を更に大きく瞬かせる。 「そうだよ。翔琉パパの腕は、たった一人の――愛する人を幸せにする為だけにあるんだ」 優しい口調で淀みなく翔琉はそう告げると、腕に抱いていた尊い存在を地面へそっと降ろした。 「りおんはちがうの?」 今にも溢れそうな程のつぶらな瞳を、めいっぱい困惑させ尋ねる。 「そうだな。梨音も大事だけど、翔琉パパにはもっと大事な人がいるんだよ……ココに、ね?」 そう言うと、翔琉は素早く俺の顎を上に向かせキスを攫った。
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