3人が本棚に入れています
本棚に追加
00:闇と月の邂逅
ボスから与えられた情報を手に乗り込んだのは、町から遠く離れた場所に建つ総合病院。
どんな化け物が財宝を生み出しているのかと、警戒心もあらわに拳銃まで持って飛び込んだ俺を迎えたのは。
「あやー」
言動が妙に幼い、小学生女児だった。
「知らない人だ、おじちゃん誰。あのねえ、ツキミの名前はねえ、教えない」
いや、言ってる言ってる。
生きる宝の山を知っているか。
俺が所属する組織のボスから、そう尋ねられた。
それが生きている限り、この世の財宝と呼べる石たちは安定して世界に供給されるらしい。逆を言うと、それが財宝を大量に生み出してしまえば市場は大混乱、宝の価値は暴落し、経済に大きな支障を来すということだ。
生きる宝の山を監視し、宝が枯渇しないよう、そして大量に湧き出さないようにする。それが俺に与えられた役目だった。
書類に目を通す。山月月月見、と振り仮名なしで書かれている。写真はない。一体どんな相手なんだ。宝石を生み出すと言うからには、カーバンクルとかいう幻獣のような存在なのだろうか。
いや、俺のファンタジー知識はどうでもいい。潜伏先に行けばおのずと分かることだ。俺は周りにナメられないよう真っ黒なスーツの上下に身を包み、七神指総合病院という妙な名称のそこへと足を運んだのだった。
「お前がツキミ……つまり、この、やまつきつき? 月見ってやつか」
「それ、さんがつきって読むよ」
「さんが……読めねえよ」
宝石の流通を牛耳る組織、その名も輝石会。その一員だと名乗り、強引にターゲットがいる病室まで案内させた俺は、今こうして小学生女児と会話をしている。
黒い長髪をツインテールにして、どんぐりのような目をした、黄色いパジャマの女児だった。
「俺の名は、闇原影郎だ。これからお前を監視する」
「前のおじちゃんと同じこと言うね」
「前の……ああ、前任者か」
「前のおじちゃんねえ、きらいなの。ツキミのこと、ぶつから」
「ぶつ……?」
「ツキミが泣くと、あのおじちゃん笑うから、きらい」
何を言っているのか分からなかった。
前任者にサディストな一面があったということだろうか。
まあ、裏社会の組織である輝石会、そのような危うい趣味の者もいないとは言えない。俺は山月月月見に目を向けて……
「はぶしゅんっ!」
盛大にくしゃみをしたそいつに、唖然とした。
くしゃみの飛沫、浮かんだ涙、垂れる鼻水。
それらが全てキラキラと輝く宝石に変わり、床にバラバラ落ちていったのだ。
「……なんだ、これ?」
「これが宝石病ですよ」
「うおっ!」
いつのまにか背後に立っていた医者に声をかけられ、思い切りビビってしまった。う、裏社会の人間がこんな程度で怯えてどうする、俺!
「月見ちゃんの体液は、空気に触れると結晶化し、宝石になってしまいます」
「それが、宝石病?」
「そうです。先天的なものなので、治療法を探すために、病院で暮らしてもらっているんです」
床に散らばる宝石たちを眺める。
……これ、元は鼻水か。なんか、宝石を見る目が変わるな。
生きる宝の山、ねえ……。
ともかく俺は、山月月月見の監視役として、この七神指総合病院に足を運ぶことになったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!