00:闇と月の邂逅

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00:闇と月の邂逅

 ボスから与えられた情報を手に乗り込んだのは、町から遠く離れた場所に建つ総合病院。  どんな化け物が財宝を生み出しているのかと、警戒心もあらわに拳銃まで持って飛び込んだ俺を迎えたのは。 「あやー」  言動が妙に幼い、小学生女児だった。 「知らない人だ、おじちゃん誰。あのねえ、ツキミの名前はねえ、教えない」  いや、言ってる言ってる。  生きる宝の山を知っているか。  俺が所属する組織のボスから、そう尋ねられた。  それが生きている限り、この世の財宝と呼べる石たちは安定して世界に供給されるらしい。逆を言うと、それが財宝を大量に生み出してしまえば市場は大混乱、宝の価値は暴落し、経済に大きな支障を来すということだ。  生きる宝の山を監視し、宝が枯渇しないよう、そして大量に湧き出さないようにする。それが俺に与えられた役目だった。  書類に目を通す。山月月月見、と振り仮名なしで書かれている。写真はない。一体どんな相手なんだ。宝石を生み出すと言うからには、カーバンクルとかいう幻獣のような存在なのだろうか。  いや、俺のファンタジー知識はどうでもいい。潜伏先に行けばおのずと分かることだ。俺は周りにナメられないよう真っ黒なスーツの上下に身を包み、七神指(ななかんざし)総合病院という妙な名称のそこへと足を運んだのだった。 「お前がツキミ……つまり、この、やまつきつき? 月見ってやつか」 「それ、さんがつきって読むよ」 「さんが……読めねえよ」  宝石の流通を牛耳る組織、その名も輝石会。その一員だと名乗り、強引にターゲットがいる病室まで案内させた俺は、今こうして小学生女児と会話をしている。  黒い長髪をツインテールにして、どんぐりのような目をした、黄色いパジャマの女児だった。 「俺の名は、闇原影郎(やみはらかげろう)だ。これからお前を監視する」 「前のおじちゃんと同じこと言うね」 「前の……ああ、前任者か」 「前のおじちゃんねえ、きらいなの。ツキミのこと、ぶつから」 「ぶつ……?」 「ツキミが泣くと、あのおじちゃん笑うから、きらい」  何を言っているのか分からなかった。  前任者にサディストな一面があったということだろうか。  まあ、裏社会の組織である輝石会、そのような危うい趣味の者もいないとは言えない。俺は山月月月見に目を向けて…… 「はぶしゅんっ!」  盛大にくしゃみをしたそいつに、唖然とした。  くしゃみの飛沫、浮かんだ涙、垂れる鼻水。  それらが全てキラキラと輝く宝石に変わり、床にバラバラ落ちていったのだ。 「……なんだ、これ?」 「これが宝石病ですよ」 「うおっ!」  いつのまにか背後に立っていた医者に声をかけられ、思い切りビビってしまった。う、裏社会の人間がこんな程度で怯えてどうする、俺! 「月見ちゃんの体液は、空気に触れると結晶化し、宝石になってしまいます」 「それが、宝石病?」 「そうです。先天的なものなので、治療法を探すために、病院で暮らしてもらっているんです」  床に散らばる宝石たちを眺める。  ……これ、元は鼻水か。なんか、宝石を見る目が変わるな。  生きる宝の山、ねえ……。  ともかく俺は、山月月(さんがつき)月見(つきみ)の監視役として、この七神指総合病院に足を運ぶことになったのだった。
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