四章◆繋がるご縁

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*** それは、杏奈がいくつかパンを注文してからの突然のことだった。 「あの、前は酷いこと言ってごめんなさい」 思いがけない杏奈の謝罪に、琴葉はパンを袋へ詰める作業の手を止めてキョトンとした。 何のことだろうと、不思議そうな顔をする。 謝られるようなことが何かあっただろうかと思いを巡らす。 そして、あっ、と一年前のことを思い出した。 雄大から手を引けと言われたこと。 雄大のお金目当てで近付いたと言われたこと。 とても悲しくて悔しい思いをしたあの時のこと。 ばつが悪そうに目を伏せる杏奈に、琴葉はにこりと笑みを称えて言った。 「わー、そんなこともうとっくに忘れていました。ふふふ。杏奈さんってやっぱりいい人ですね」 ニコニコと笑う琴葉に、今度は杏奈が不思議そうな顔をする。 「雄くんが、杏奈はいいヤツだからって言ってましたよ」 「雄大が?」 琴葉が杏奈のことを恨まなかったのは、雄大が“杏奈は根はいいやつ”だと言ったからだ。 琴葉はそれを信じた。 例えそれが嘘だとしても、そういうことにしておいたほうが気持ちも楽になるからだ。 けれど今日、それは本当のことだったんだと実感した。時間はかかったけれどきちんと謝ってくれたのだ。自分の非を認めて謝罪することはとても勇気がいる。 それを杏奈は実行したのだから、琴葉は素直に嬉しいと思った。 「今日は来てくださってありがとうございました」 琴葉はお金を受け取り、代わりに丁寧にパンを詰めた紙袋を杏奈に手渡す。 杏奈はそれを受け取ると、琴葉を見て言った。 「また、来るわね」 「はい!ぜひ!」 杏奈の言葉に、琴葉は更に嬉しくなって満面の笑顔で見送った。
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