どうしようもないお父さん

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 僕が恋した娘さんには、お父さんがたくさんいた。  遺伝子上のお父さん。文字の中のお父さん。育てのお父さん。養育費をくれるお父さん。お父さんオブお父さん。勉強を教えてくれるお父さん。よそのお宅のお父さん。欲しいものを買ってくれるお父さん。不倫中のお父さん。仕事を教えてくれるお父さん。怪しいお父さん。旅行に連れていってくれるお父さん。画面の向こうのお父さん。蒸発したお父さん。料理を作ってくれるお父さん。愛をくれるお父さん。ロボットのお父さん。お母さんみたいなお父さん。表面上だけのお父さん。デートしてくれるお父さん。独身のお父さん。空気が読めないお父さん。金持ちなお父さん……。  いちいち数えていられないほどのお父さんが一堂に会する中、僕は彼らに頭を下げた。 「娘さんを僕にください」 「娘はやらん!」  お父さんたちは申しあわせたかのように言った。  が、次の瞬間には、お父さんたちはいがみあっていた。 「おまえの娘じゃないだろ!」 「じゃあ、だれの娘だ!」 「俺の娘だ!」 「いんや、オラの娘だぞ」 「ピー、ガー、ムスメニ、テヲダスナ」 「こうなったら娘に決めてもらえ」 「娘に媚びるな」  目の前で繰り広げられる大乱闘に絶句していると、娘さんが両手を挙げながら肩を竦めた。 「ほんと、どうしようもないお父さんばっかりで困っちゃう」
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