3人が本棚に入れています
本棚に追加
僕が恋した娘さんには、お父さんがたくさんいた。
遺伝子上のお父さん。文字の中のお父さん。育てのお父さん。養育費をくれるお父さん。お父さんオブお父さん。勉強を教えてくれるお父さん。よそのお宅のお父さん。欲しいものを買ってくれるお父さん。不倫中のお父さん。仕事を教えてくれるお父さん。怪しいお父さん。旅行に連れていってくれるお父さん。画面の向こうのお父さん。蒸発したお父さん。料理を作ってくれるお父さん。愛をくれるお父さん。ロボットのお父さん。お母さんみたいなお父さん。表面上だけのお父さん。デートしてくれるお父さん。独身のお父さん。空気が読めないお父さん。金持ちなお父さん……。
いちいち数えていられないほどのお父さんが一堂に会する中、僕は彼らに頭を下げた。
「娘さんを僕にください」
「娘はやらん!」
お父さんたちは申しあわせたかのように言った。
が、次の瞬間には、お父さんたちはいがみあっていた。
「おまえの娘じゃないだろ!」
「じゃあ、だれの娘だ!」
「俺の娘だ!」
「いんや、オラの娘だぞ」
「ピー、ガー、ムスメニ、テヲダスナ」
「こうなったら娘に決めてもらえ」
「娘に媚びるな」
目の前で繰り広げられる大乱闘に絶句していると、娘さんが両手を挙げながら肩を竦めた。
「ほんと、どうしようもないお父さんばっかりで困っちゃう」
最初のコメントを投稿しよう!