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 赤く膨れ上がった満月の夜であったそうだ。おあつらえむき。母さんは自室の床に魔法陣を描き、儀式の準備を整えて、果敢に召喚の呪文を唱えた。  雷鳴が轟いた……のかどうかは判らない。ともかくも、悪魔はそこに現れた。身の毛のよだつ姿……では、なかったらしい。背が高くて、全身を黒の装束できめた長髪のハンサム。(「ああ、でも、頭に角が生えていたわ。ううん、鬼の角じゃない。もっと、ヤギっぽいやつ」)  人ならぬものの存在を前に、母は怖気づくことなど微塵もなかった。復讐したい一心が、彼女をたくましくしていた。むしろ悪魔の方が、鳩が豆鉄砲を食らったような表情をしていた(この表現は母による)。 「お前が私を呼んだのか、」  悪魔は問うた。 「そうよ、私があなたを呼んだの」  胸を張って母は答えた。悪魔は紫の(ひとみ)を見開いた。 「私を呼びだせるほどの力を持った人間が、この世に存在するとは」
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