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「何があったの、」  母さんは僕の傷の手当てをしながら、穏やかな口調で訊ねた。 「父さんを怒らせた」  僕は答えて、(なみだ)をあふれさせた。 「まあ、」母さんが目を瞬かせる。「びっくりしたのね」よしよし、と、赤ん坊にするみたいに僕の頭を撫でる。 「あのひとが怒るなんて、はじめて」  どうしてか母さんは嬉しそうだ。可愛い一人息子が怪我をしたと云うのに。 「怒ったことないの、」 「ないわ、一度も。私にも、あなたにも」 「変なの、悪魔なのに」 「なあに、その理屈」  ふふ、と、母さんは笑う。やっぱり、ユディトより美人だ。
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