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全く記憶になかった。信じられなくて、僕は唇をすり合わせる。母さんは目を繊めた。
「そしたらね、次にあなたと会う時から、あのひと、角を隠すようになったの。あなたを怖がらせないように。理由を口にはしなかったけれど、私には判った」
母さんはもういっぺん僕の頭を撫でると、救急箱を持ってソファから立ち上がった。
あくる日、僕が学校から帰る途中、蕎麦屋の前で紫色したカバの着ぐるみが立っていた。いろんな色の風船を手にして、小さな子どもたちに欲しい欲しいと囲まれている。
紫のカバなんて気持ち悪いなと思いながら横を通り過ぎようとすると、カバの手が伸びて、風船を差し出された。そんな子どもじゃないのに。不本意ながら受け取ると、もう一つ、もう一つと渡されて、全ての色の風船を貰ってしまった。良いなあ、良いなあと、空手の子どもたちが羨ましがる。
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