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 ところで僕はれっきとした人間だ。正真正銘、ただの、人間。悪魔の血なんて一滴たりとも混じっちゃいない。それなのにどうして悪魔の長である魔王が僕の父親になったのか。それは僕の母さんが、彼を召喚してしまったからだ。  僕の母さんは自慢だけれども絶世の美女だ。クラナッハの「ユディト」に雰囲気が似ている。でもユディトよりも断然、綺麗だ。なのになぜだかおそろしく恋愛が下手なんだ。救いようもないほど最低の人間ばかり好きになってしまう。  母さんが二十八歳の時、ある男性との結婚が決まった。お腹には新しい生命が宿っていた……僕のことだ。互いの両親に挨拶をして、職場を祝福されて退職し、いよいよ結婚式と云う直前で、男は他の女性の元へ行ってしまった。  とんでもない裏切りに、母さんは怒り狂った。これまで耐えてきた数々の最悪な恋の結末が、脳裏に蘇った。その豊富な失敗の経験を糧にして、ようやく本物の愛を摑めたと思ったのに──男は口先ではずいぶんやさしい奴だったらしい。
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