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 彼が驚いたのも無理はない。彼は一般人が気軽に召喚させられるレベルの悪魔ではなかった。悪魔の中でも最強の存在である魔王だった。本来なら母が呼んでいたのは、もっと親しみやすい下級の悪魔のはずなのに、どうやら呪文か魔法陣の一部を間違えたらしい。母は大変まじめな性格だが、どこかうっかり屋なところがある。  あとで僕がインターネットで調べたところによると(全くもってインターネットは便利だ)、あまり上級の悪魔を呼ぶと、人によっては姿を見ただけで窒息して死んでしまうのだそうだ。本当だろうか。しかし母は窒息どころか、堂々と真正面から相手を見据えた。母に怖いものなどなかった。冬の川に手足を縛られて投げ捨てられた時の方が、よほどおそろしかったそうだ──「その男、笑っていたのよ。冗談だからって」──赦しがたいそいつこそ、悪魔じゃないのか?  魔王は母を見つめ返し、ほう、と、感嘆の溜息を漏らした。 「しかし何と美しい」
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