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世紀末のようなひと目惚れ。魔王はすぐさま母を自分の花嫁にしたいと申し込んだ。母はお腹に子供がいることを打ち明けた。それでも良いと、魔王は答えた。
「お前の良き伴侶、そしてその子の良き父親となろう」
瞬間、母の復讐心は解かれた。母は本当に男を殺めたかったのではない。仕合わせになりたかったのだ。けれどもさすがにただで赦すのも悔しいので、ちょっとした呪いを魔王にかけてもらうことにした。男の好物であるカツ丼を食べると、決まってお腹を壊すと云う呪い。おそろしい。
かくして母と魔王が結婚をした。だが重大な問題があった。魔王は他の悪魔と違い、簡単に悪魔界を離れられない。多忙だし、威厳にかかわる。それに人間を伴侶にすることを、ずいぶん前に先代の魔王が固く禁じていた。
夫婦が直接会ったのは、だから初めて対面したその一回きりしかない。魔王は悪魔の世界へ帰り、鏡越しに二人は愛を育んだ。そして僕が生まれて、魔王は僕の父親となった。当然、僕と父さんは一度もじかに触れ合ったことがない。
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