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「葵生、何か欲しいものはないか。ロケットとか、シュリケンとか」
「口紅。ジバンシィの」
「口紅? お前が使うのか、」
「違うよ、母さんの」
「ああ、そうか」
父さんは羽根ペンと手帖を脇に置き、
「手を」
云われるまま鏡に向かって手のひらを差し出すと、鏡の向こうで父さんが呪文を唱える。すると僕の手にはもう、新品の口紅がある。
「ありがとう」
父さんは微笑む。こうして見ると、ただの長髪のハンサムだ。とても悪魔になんか見えない。父さんは僕と会う時、その二本の角を隠している。おそらく魔力で見えないようにしているのだろうけど、全くただの人間のような姿でしか、僕と相対しない。正体をごまかして息子と会う父親、か。信用ならない。
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