てん、てん、てん。

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 いいんかいそれで。俺は心の中でツッコミながらも、言われた通りポストの中から鍵を拾って、がちゃりと回させてもらった。理央の家に遊びに来るのはこれでウン十回目である。勝手知ったる我が家のごとく、靴を隅に揃えて洗面所へと走った。手洗いうがいはしっかりと。親の教育云々というより、なんとなくちゃんとやらないと気持ち悪い気がしてしまうからというだけの理由であるが。  理央と遊ぶときにやることは決まっている。彼の星関連の知識を聴いておしゃべりするか、動画を見るか、お絵かきをするかだ。男子小学生の遊びとしてはおとなしいものなのかもしれないが、俺はそんな物静かな理央との“遊び”が結構気に入っていた。星が好きというより、新しいことを知るのが好きなのだ。勉強だと頭に入ってこないのに、自分から興味を持ったものだとガンガン覚えられるというのは不思議な話である。 「なあ、早速だけどみにぷらはよ!はよ!」 「はいはい」  今日訪れた最大の目的を、テーブルをバンバンする仕草で催促すれば。理央は苦笑して、リビングに待機してあった箱をずずず、と引っ張ってくる。  ミニプラネタリウム、商品名“みにぷら!”。サッカーボール大の銀色の球体に、青いラインが入ったその機械は。家でも気軽にプラネタリウムが楽しめますよ、という名目でCMが流れていたものだった。一応玩具に分類されるものの、買うのは殆どが大人の男女だろう。防水性なので、なんと風呂場に設置することもできるらしい。満点の星を眺めながら風呂に入ってまったりするなんて、なんと贅沢なひとときであることだろうか。 「出ましたー!お父さんついに買ってくれましたーいえーい!」  理央の言葉に、俺もいえーい!と一緒にパチパチと拍手をする。望遠鏡ほどではないが、この玩具も結構値が張る代物であったはず。一ヶ月前の誕生日プレゼントに買って貰えたのはようするに、彼の父もプラネタリウムを楽しみたかったからに他なるまい。 「これね、リビングでも見られるんだけど……今は昼間だからさ、どうしても明るすぎてぼやけちゃんだよね。オススメはお風呂。電気消してばっちり締め切って、真っ暗にしてスイッチいれるの」 「おお、いいじゃん。ほんとのプラネタリウムっぽい」  わくわくしながら箱から取り出し、思いのほか重たい機械を抱きかかえるようにして運ぶ俺。この家にはお泊りしたこともあるので、風呂場の位置も当然よくわかっている。 「よっし。今日もいつも通り、解説頼むな理央ー」  俺の言葉に、任せときたまえ!と理央は小さな胸を張って答えたのだった。なお、肝心の星座のディスクをリビングに忘れて、星座が出ない出ないとしばらく騒ぐことになるのはここだけの話である。
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