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知識を集めるのは好きとはいえ、まだまだ星に関して俺の知っていることなどたかが知れたものである。天気が良い日に冬の空を見上げても、見つけられるのは斜めに三つ並んだオリオン座くらいなものだ。
「星座って、ギリシャ神話から来てることが多いんだっけ、名前」
「そうそう」
まだ身体が大きくない俺達ふたりなら、お風呂の中に並んで座っても全然余裕がある。体育座りをして、満点の星が降る人工の夜空を眺めながら尋ねれば、理央かすぐに説明してくれた。
「ギリシャ神話に登場する狩人だね。ポセイドンの息子って説もある。乱暴者だったせいで恋人アルテミスのお兄さんに嫌われちゃって、しかもそのアルテミスの矢にいられて死んじゃったっていうちょっと可哀想な人」
「あれ?オリオンって蠍に殺されたんじゃないのか?」
「確かにサソリは宿敵だって言われてるけど、実際はアルテミスに殺されたんだよ。お兄ちゃんに騙されちゃってさ。ただ、死んだ後も蠍が大の苦手なもんだから、常に夜空で蠍から逃げ回ってる。蠍座とオリオン座が、同じ季節に夜空に出てこないのはそのためなんだって言われてる」
「へえ」
キラキラと瞬くオリオン座、有名な三つ並んだ星はオリオンの腰部分に位置するのだっただろうか。
肩部分でひときわ明るく輝いているのがベテルギウスだったはずだ。なんでも、星としての寿命を終えそうになっているから、あんなにも赤く光り輝いているのだと聞いたことがある。あれは遠いから小さく見えるだけで、実際は太陽よりもずっと大きな恒星だと聞いたときは心底驚いたものだが。
「ベテルギウスって、そのうち超新星爆発でなくなっちゃうんだっけ。そうしたら、オリオンの肩にはなんもなくなっちゃうのかー」
俺がにわか知識でそう告げると、隣で理央がけらけらと笑ってみせた。
「超新星爆発するとしても、まだしばらく先だって。もしかしたら百万年後かもしれないっていうんだから。そもそも、七百光年も先にあるんだよ?その光が届くのは、爆発してから単純計算で七百年も過ぎた後なんだから。ちなみにほんとに爆発が起きたら、昼間でも明るくくっきり見えるようになるんじゃないかとは言われてるね」
「最期の輝きってやつかー。ていうか、星が爆発して地球は大丈夫なのか?」
「七百光年だよ?遠すぎて全く問題ないって。まあ、銀河系の中でかなり近くにある恒星の一つではあるけどね。誕生から九百万年も過ぎてるってのが凄い話だよね。それ言ったら、地球の年齢なんか仙人レベルだけども」
「確かに」
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