てん、てん、てん。

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てん、てん、てん。

 都会では、まともに星を見ることなどできない。満天の星空を見たいのなら、プラネタリウムに行くしかないと考えるのが普通だろう。  しかし、最近は科学館ほどではなくても、綺麗な星空を楽しむ方法がないわけではないのである。それが、家用のミニプラネタリウムを使うことだ。“みにぷら!”という可愛らしい丸っこい機械は、ディスクをセットするだけで様々な季節の星座を家で楽しむことができるのだそうだ。  今回俺が友達の家を訪れたのも、まさにそのみにぷらが目的であったりする。 「来たぞ理央(りお)――!さっさと家に上げろやー!!」  俺はわざとらしく、親友である理央の家の前でわいのわいの叫ぶ。同じクラスの理央は、小学生離れした星座の知識の持ち主だ。星オタク、星マニアと呼ばれたら怒るどころか誇らしげに胸を張るほどである。なんでも、お父さんもお祖父さんも星が好きだとかで、本人も幼い頃から科学館を連れ回され、すっかり影響されてしまったのだというのだ。  大型の天体望遠鏡も持っているという。残念ながらウン十万円というちょっとお年玉で買うにもきついような額であるために、お父さんの許可がなければ触らせてもらうことはまだできないらしいが(とても壊れやすくて繊細なんだそうだ。今度理央のお父さんがいる日に、一緒に使わせてもらえるようお願いしてみようと思う)  この時間、家には理央一人しかいない。彼の両親は土曜日も仕事をしていて、パートのお母さんでさえ夕方にならないと帰って来ないからだ。こっそり望遠鏡を使わせてもらうのはアウトだとしても(ビニールがズレてたらどうせすぐにバレるし)それまで彼の家の中は理央と俺の独壇場と言っても過言ではなかった。 「駿(しゅん)クン近所迷惑でーす。大声出さないでくださーい!」  一戸建てのベランダからひょこっと顔を出す理央。今日は赤い丸めがねをかけている。子供がかけるにしては野暮ったいデザインな気がしないでもないが、本人はあまり気にしていないようだ。外見より、使いやすいかどうかの方が大事でしょ?らしい。本当に彼は、星を見ることと絵を描くこと以外に興味がない人間であるようだ。下手に飾らないし嘘も言わないので、そこが俺やクラスのみんなに好かれる理由でもあるのだろうけれど。 「鍵しまってるけど、ポストの下に予備の鍵あるから開けて入ってよしー」 「おい理央、防犯どこいったよ。いくらこの近辺静かだからってさ」 「いいのいいの。そうでもしないとうちのお母さんすぐ鍵落としただの失くしただの騒いで面倒なことになるから!」
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