カウントダウンの向こう側

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カウントダウンの向こう側

 十年後に、地球に巨大隕石が激突する――。それが分かった時、有識者達が最初に考えたのは、いかに被害を最小限に食い止められるかということだった。幸い観測できたのが早かったため、隕石衝突までのタイムリミットは十年という猶予がある。その間になんとか、巨大隕石を破壊する方法か、せめて地球から逸らす方法を考えなければいけない。  A国の総理大臣である私は、他の国のリーダー達との話し合いに参加していた。  それぞれの国が科学技術の粋を尽くして、隕石を破壊する兵器を開発しよう。そうすれば地球全体が助かる筈だ――まずはそういうところから、話し合いがスタートしたわけであるのだが。 「確かに、隕石を破壊できるほどの巨大な爆弾やロケットが開発できれば、この星に被害を出さずに済むのだろうがね」  超大国の一つであるB国は言う。 「まず、それだけの兵器を共同開発する費用は一体どこから捻出するというのか。言いだしっぺのA国さん、基本的な費用はそちらで持ってくれるのだろうね?それと研究施設は何処に作るんだ。兵器開発のためには大量の汚染物質が出るだろう。これ以上大気汚染がどうのと言われたらたまらんのだが」 「B国は結局それか。金と自分の世間体のことしか頭にないのか」  別の超大国であるC国が呆れてため息をついた。 「なんならその費用は、ウチとA国で折半してもいいぞ。研究施設も、土地が狭いA国より我々C国の方がいいだろう。ただし、隕石を破壊した後の兵器の所有権はウチがもらうということで文句はないね?我々は世界平和のために最も貢献している国だ。私達が持っているなら誰も文句はないだろうさ」 「とんでもない!問題大ありだ!」  独裁国家と名高いD国が異論を唱えた。 「うちとC国は仲が悪い。そもそもC国の、さも自分達が世界の牽引者だと言わんばかりのやり方にはうんざりしてたんだ。兵器なんか持たせてみろ、これから先の未来は真っ暗!言いがかりをつけて、その兵器を我々の国に向けられるようなことがあるかもしれないと思ったら、恐ろしくて夜も眠れない。世界で最も神聖な現人神たる私が率いる、このD国こそ所有するべきだろう!」 「D国が隕石をも破壊できる兵器を所有するだって?冗談じゃない」  同じく独裁国家とされているE国が不満を漏らす。 「人権を無視して民を虐げる、君達が一番信用ならない。しかも君達は、出来上がった兵器の所有権を主張するばかり。兵器は欲しいと言いながら、自分達では金も技術も出す気がないんだろう?そんな奴らに渡せるものか。大体、君が現人神だという勘違いがまず神への冒涜に等しい。最も兵器を公正に、平和のために使えるのは我々E国の他ならない」 「兵器も怖いけど、そもそもその兵器をどの国が主導で使うかを話し合った方がいいんじゃないの?」  先進国ながら、最近経済が悪化しているF国が恐る恐る手を挙げる。 「スイッチを押すのが信用できない国だったら、隕石を破壊すると見せかけて気に食わない国にぶっぱなすかもしれないよ。そんなのは勘弁だね。大体、隕石を壊した破片がどう飛び散るかわかったもんじゃない。スイッチを押した国とその国と親しい君以外は破片でダメージを負う……なんてのがありそうで本当に怖いんだ。ウチはお金がないから費用も技術も出せないし、兵器の所有権も主張しないけど、頼むからうちの国に被害が出るような結果だけはやめておくれよ」  結局のところ。どの国も、自国の利益しか考えていない状態である。私は一人の人間としても、A国の首相としても頭を抱えるしかなかった。巨大隕石という共通の敵を前にすれば、人類はみな手を取り合って共に立ち向かえるかと思っていたのに――残念ながらそんな理想は甘すぎたらしい。  隕石を破壊する兵器、なんてものが本当にできるのかどうかさえわからない段階である。まずは、皆で協力しあって、開発チームとして優秀な人材を募集し、選抜するところから始めなければいけないはずなのである。それなのに、各国のリーダーは、そのための必要経費を押し付け合うところから始まり、そのくせまだ出来上がる気配もない兵器の所有権を今から揉めに揉めているのだ。  これでは、いつまでたっても会議が踊るばかりである。  実際、A国の総理大臣としては、私も立場上彼らの多くの主張を認めるわけにはいかないのだ。A国は先進国であるが、国土も狭いし他の国ほどの発言権も与えられていない。最大の同盟国であるC国に上手に擦り寄って、兵器がせめて彼らに渡るように議論を誘導しなければならないのだ。同時に、さりげなく膨大な金額を共同開発費用としてこちらにふっかけてくるであろうC国を宥めて、少しでも国家予算の負担を軽減しなければならない。超大国であるC国逆らえるような国力ではないとわかっているハズの国民たちだというのに、最近はなんでもかんでもC国のいいなりになってばかりだと総理である私を責める世論でいっぱいなのだ。  そんなに文句があるなら、どうぞお前らが代わりにこの椅子に座って交渉してくれと言いたいものである。あっちにこっちにと板挟み、正直胃が痛くてたまらない。こんなくだらない話し合いで足踏みを続けていたら、十年後に地球まるごと滅んでしまうかもしれないというのに。 「えっと、そろそろ君の意見も聞かせてくれないか、A国」  やがて。散々議論がヒートアップした後で、C国の大統領にやっと水を向けられた。ああ、結局まだ研究者たちのチームを選ぶ工程さえも話し合われていないし、不毛でくだらない議論ばかりが続いている。あんたたちはそれで恥ずかしくないのか――そう思いながらも、総理大臣として私は作り笑いを浮かべるしかない。  そして、言うのだ。 「わ、私は……C国さんの意見に賛成です。共同開発の費用に関しては、慎重に話し合う機会を設けて頂きたいとは思っておりますが……」
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