夕焼けの思い出

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ある日父親がまた早く帰ってくると知り家の外で待っていた。 「おーい!」 「あ、とーさーん!」 駆け寄ってはまた抱っこされる。 しかしこの日はいつもと違った。 「あれ?くさくなーい。」 「そうか。くさくないか…」 そう呟いた父親の目は少し悲しそうだった。 いつもしていた油の匂い。この日はそれが全くなかった。 そしてこの日を境に家族はバラバラになった。 あとから聞いた話だったが親父の工場が倒産して働く場所がなくなったらしい。 世間は不景気で再就職先はなかなか見つからず慣れないお酒を飲み家庭の雰囲気は悪くなったそうだ。 耐えれなかった母親は俺の手を引き家を出た。その日から父親とは1度も会っていない。 恨んでるかって?そんなことあるはずもない。 だってその時の父親との楽しかった記憶が今の俺の原点だからだ。 「パパー!!」 仕事の帰り道。目の前から愛しい息子と嫁の姿が見える。 「ただいま!」 「おかえりー。ねえ?キャッチボールしよー!?」 「パパ疲れてるからまた今度にしなさい。」 「大丈夫だよ。じゃあやろっか!」 「やったー!!」 呆れ顔の嫁。嬉しそうな息子。 今ならわかる。どんなに疲れててもこの顔を見たら元気が出る。 きっと親父もそんな気持ちだったんだろう。 親父からもらった愛を今度は俺がこの子や嫁に注ぐ番だ。 空を見ると綺麗な夕焼け空が あの日と同じオレンジ色の空が広がっている。 あなたもこの空を見ていますか?
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