アポカリプスの休日

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 教師のいない寄宿学校。あるのは図書室に残された紙のテキストと、原始的なコンピュータ。それといくつかの備品。  木造の壊れかけた校舎と、それよりは少しだけましな二階建ての寮。それがこの施設のすべてだった。  ここを学校と呼ぶのは、寮に住む十七人の生徒たちだけだった。彼らの誰も、自分の両親の所在を知る者はいない。ここで子供たちだけで暮らしていると知ると、一人、また一人と子供が置いていかれて、今に至る。  畑と家畜を育て、行商人から雑貨と情報を得て、くたびれたテキストから学び、生徒たちはただ生きている。  なだらかな山に囲まれた濃紺の空には、星がよく映えていた。  小さな盆地状になった土地に建つ寄宿学校からは、最も近い集落でも、三十キロほど離れている。  ルーサーは、一つ年下のリサにこしらえてもらったばかりの革の靴を履いて、アールマシーと共に寮の外に出た。 「人類の拠点て、地球上にあといくつあるんだろうね」  ルーサーが呟くと、アールマシーが空を仰いで答える。 「さあな。この辺だけでも行商人が商売になるくらいなんだから、それなりにあるんだろ」  その時、わいわいと騒がしい声が聞こえてきた。寮から、年少組の、六七歳の少年少女が三人ほど走り出てくる。 「ルーサー! 今日、流星が降るんでしょ!?」  ルーサーは言葉に詰まりながらも、「ああ」とうなずいた。  そう言うが早いか、暗い空に数条の光が奔り始める。 「うわあ!」  目を輝かせるちびたちの横で、ルーサーとアールマシーは、数を増していく青白い光を静かに見つめていた。山の端に消えていく光の先端が、わずかに稜線を浮かび上がらせた。 「……着弾してるな」 「うん……。アールマシー、他の生徒は?」 「見る気にもならないんだろう。流星の正体が、レヴィヤタンの『水の焔』だと知った連中は」  レヴィヤタンは元々、人類のある一勢力を滅ぼすために、別の勢力が造り出して、空に放ったものだった。  だがその制御は失敗し、空舞う蛇は人類都市への攻撃を始めた。  蛇たちが破壊相手と見定める基準は、電力にある。地表で電力がある程度集中する地域があると、地球中の空にいるレヴィヤタンがその地域の上空に集まる。そして「水の焔」を一斉に放つのだ。 「アールマシー、またどこか、多少の発展をした都市があったのかな」 「そういうことだな。旧文明の時は、電力豊かな大都市から順に攻撃されていって、誰も手も足も出なかったっていうからな」
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