約束の場所

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約束の場所

クリスマスが近づくころ。 電飾に彩られたもみの木と、待ちゆく人の着込んだ服装に季節の移ろいを感じた。 自分はいつまでこうしているのだろう、と苦笑いでチャンネルを変えると星座の話が聞こえだした。 【冬は空気が澄んでいて星がよく見えるんです】 【皆さんもぜひ、冬のダイヤモンドを探してみてください】 (・・・冬のダイヤモンド) カペラ、ポルックス、プロキオン、シリウス、リゲル、アルデバランを繋ぐ六角形。 その中に彼の名前を見つけて、自然と口からこぼれる。 「リゲル・・・」 神話の中のその名前とは似ても似つかないような、大人しく優しい青年だった。 静かに微笑む君を、ずっと隣で見ていられるのだと、そう思っていた。 でも もう君は手の届かないところへ行ってしまった。 自分も死ねば同じところに行けるだろうか。 君のいない世界に未練なんてない。 そう思って後を追おうとしたけれど叶わず、みじめに生きている僕を見たら君はなんて言うだろう。 【なにやってんの】 そう言って困った顔で笑うだろうか。 何でもいい。 君の声が聴きたい。 君の笑顔が見たい。 リゲルとの思い出を辿っていると、ふと暖かな約束を思い出した。 【じゃあさ。冬になったら星を見に行こう】 あれは確か、夏のある日の事。 夏は暑くて外に出たくない、冬は寒くて出られないという君に 【冬の大空に輝く星の名を持っているのに】 と笑って言った時の事だった。 へぇ、と驚いた顔で言った彼。自分の名前と同じ星があると、初めて知った日。 それを見てみたいと、俺と一緒に見てみたい、と言ってくれた。 なぜ忘れていたのか。 たった1つの君との約束を。 思い立って、すぐに準備して外に出る。 行かなければ。 君との約束を果たしに行かなければ。
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