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パチパチと、暖炉の火は相変わらず気ままなリズムを鳴らしております。
それを取り囲むように並べてある椅子のひとつに、彼女は深く腰をおろしました。
シュレーディンガーはその脇に行儀よく座っており、眠たそうなあくびの最中です。
そののんきな姿は、僅かに緊張していた私を和ませてくれました。
なぜ緊張していたのか?
それはおそらく、今しがた帰られた客人が原因なのでしょう。
けれど不思議なもので、彼らのことを思い返すと、今度は緊張よりもふわふわとしたあたたかい感情が浮かび上がってくるようでした。
するとそのとき、同じように彼女達のことを思い返していたのか、常連の女性が私に問いかけてこられました。
「ねえ、館長さん。せっかくの機会だったのに、あの子達とあんまり話せなかったんじゃない?」
気の毒そうな言い方です。
私は「そうですね…」と同意を返しましたが、
「ですが、あのお二人は楽しそうでしたから」
にこりと笑顔がこぼれていました。
けれど私の返事にいまひとつ納得しきれないのか、彼女はどこか不満げな表情を隠しませんでした。
「どうせなら、名乗ればよかったのに」
「そういうわけには参りません」
「でも、最初にあの子をここに招いたのは、わざとでしょ?」
「さて、どうでしょう」
「もう!いいじゃない、教えてくれたって」
拗ねた彼女は、”天真爛漫” という言葉がぴったりです。
よもや、その年齢を正しく推し測るのはどなたにも不可能でしょう。
くるくる変わる顔色は、見ていて飽きるものではありません。
私はよく彼女に感情の差異の美しさを見せていただいております。
そのお礼というわけではありませんが、私は、彼女に少しだけ、本心をお見せすることにいたしました。
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