14人が本棚に入れています
本棚に追加
「以前、腕時計を、贈ったのです。孫息子に」
「ああ、あの二人が偶然お揃いになってしまった時計のこと?」
「さようでございます。そのせいで、あのお嬢さんには、嫌な思いをさせてしまったようですね」
「使い始めたのはあの子の方が先だったみたいだけど?」
「ええ。ですから、私が贈った物のせいで嫌な思いをさせてしまった少女に、申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった…というわけです」
そこまで説明すると、彼女はようやく合点がいったという風に数度頷きました。
「なるほど、館長は罪悪感があったわけね?それで、雨宿り場所を提供して、ついでに二人きりで話す機会を与えた…ってわけ?」
「さようでございます」
「まあ、館長らしいと言えば館長らしい選択よね」
「褒め言葉として賜ります」
「別に皮肉で言ったわけじゃないわよ。だいたい館長は―――――」
ころころ変化する彼女の感情が、お説教色を濃くしはじめましたが、急にピタリと止まりました。
そして、私の横に視線が流れたのです。
私は何事かと彼女の注目を辿りました。
すると、私が何かに気付くよりも早く、彼女が身を乗り出していました。
「あらやだ、あの子ったら、携帯電話機を忘れていってるわ」
そう言いながら彼女が手に取ったのは、白銀色の四角い物でした。
「それは、”スマホ” という名前だそうですよ」
わたしは彼女に教えて差し上げました。
「それくらい知ってるわよ。使ったことがないからすぐに名前が出てこなかっただけなんだから」
おや、またしても彼女の機嫌を損ねてしまったようです。
けれど、
「でも、これがないとあの子困るんじゃないの?……よし、私があの子に返してくるわ!」
すぐさま、満面の笑顔でそう言い出したのです。
今日の彼女は、やはり、世話好き度がこの上なくあがっているようですね。
最初のコメントを投稿しよう!