14人が本棚に入れています
本棚に追加
「ほら館長さん、さっさと時間止めてくれない?」
まるで容易い用事を頼んでくるような軽さで、彼女は私を見上げてきました。
この図書館、そして私の秘密は特別隠しているわけでもありませんし、ご存じの方は大勢いらっしゃいます。
ですので、このように頼まれごとをする事も多くございます。
そういった際は、その方のお話をよく伺って、お受けするか否かを決めさせていただきます。
今回は、あの少女の忘れ物を届けたいということですので、私がお断りする理由は何もございません。
ただ、私が ”時の図書館” の館長の権限を発動する場合、注意点がいくつかございます。
彼女はもうそれを承知してるはずですが、念には念をということで、その注意点を申し上げました。
「でしたら、何か書籍を借りていただかないと」
「わかってるわよ。……じゃあ、この本。ほら、貸出手続きしてくれない?」
彼女はササッと書架から一冊を持ってこられました。
それは、世界中の夕焼けを集めたフォトブックでした。
「なかなか素敵なセンスをお持ちですね」
私は他意なく、正直な感想を申しました。
すると彼女は、とても嬉しそうに「それはどうもありがと」と笑ったのです。
貸出カードに必要事項を記入する私も、なんだか笑顔になっていました。
「では、こちらの貸出期間は……」
「三十分もあればじゅうぶんよ」
私のセリフを遮った彼女は、得意げに言い切りました。
「私、足には自信があるの。それに、館長のおかげで今は二十代の体なんだし……ちなみに、何度も訊くようだけどあの時借りた本の貸出期間は ”永久” なのよね?」
確認するように尋ねてきた彼女は、ほんの少々、瞳に不安を差しました。
ですから私は、彼女に安心していただけるよう、
「もちろんでございます」とお答えしたのでした。
最初のコメントを投稿しよう!