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以前、とあることがきっかけで、彼女の体の時間を随分逆戻ししたことがございます。
そういえば、そのとき彼女が借りていった書籍も、確か夕刻に関するものだったと記憶しております。
今回と異なっているのは、そのときの貸出本には返却期限がなかった、ということでしょうか。
どういういきさつで返却期限がなくなったのかについては、長い話になりそうですので、またの機会にさせていただきたく存じます。
私の返事を聞いた彼女は、安心したように、口角をニッと上げました。
「ま、そういう約束だったしね」
彼女はそう言うと、もうパンプスを脱いで、駆け出す気満々のようです。
何も駆けて行かなくとも、私共にはそれ相応の移動手段というものがあるのですが、彼女の気持ちは今にも走り出してしまいそうなほどなのでしょう。
「では、返却は三十分後にさせていただきます。すでにご承知いただいてるかと存じますが、この貸出本を紛失されると、もとの時間の流れに戻ることが不可能になりますので、くれぐれもご注意ください。また、何らかの事情により返却が送れる場合には、必ずご連絡くださいますようお願いいたします」
「了解」
「ではロビーへどうぞ」
そう言って、私は彼女をサブリエにご案内いたしました。
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