絶望的鉢合せ

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「・・・別に、ちょっと話しかけただけじゃん。それくらいで・・・・」 「それで福田さんが詩に懐いたら?? 詩は優しいから一緒にいてくれるって勘違いしたら??」 天の言葉は、「ああ、そういうパターンあるね、」としか言いようがない。 まあ、福田さんの場合、私に水ぶっかけてきたんだから、一緒に行動したがるなんてないだろうけど。 「詩、約束覚えてる?」 天が、低い声で言った。 約束・・・・ 「私がイジメに首を突っ込んだら、笹尾のこと、みんなに言うってやつ?」 私が言うと、天が静かに首を縦に振る。 ・・・・・、そう。 言うの。 夕陽が、天の横顔を照らして、私は、その顔をじっと見つめた。 「天、大丈夫よ。」 天のネクタイを、クイッと引っ張った。 そして、そうっと少し背伸びをする。 天の唇まで、まだ、背が足りない。でも、これで十分。 「天が、心配してくれてるのちゃんと分かってる。 大丈夫、福田さんに懐かれるようなことは、何も言ってないし、そもそも私、福田さんに水ぶっかけられてるし。 ちゃんと、天の言ったこと覚えてるもん。」 天の目を見つめて囁く。 天は「ほんと?」と言いながら私の頬に手を添えた。 「ちゃんと、俺の言ったこと分かってくれてる?すごい心配なんだって、」 「分かってるよ。大丈夫。 天、ごめんね? たくさん心配させちゃって・・・ 私、天に甘えっぱなし・・・」 こう言いながら、天の唇を親指でなぞって。 そして、私からゆっくりと顔を傾けながら、さらに背伸びすると、呼応するように天も顔を傾けて、唇を重ねた。 人通りのない道で、影が伸びる。 私は、すぐに唇を少し離した。 「ねぇ、天。 私のこと、もう嫌になった?」
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