絶望的鉢合せ

25/31
前へ
/536ページ
次へ
*** おばあちゃんには、金曜日、友だちの家に泊まると伝えておいた。 おばあちゃんはお礼をした方がいいんじゃないかって気にしてたけど、しなくていいって押し切った。 そして、笹尾。 笹尾もいい大人だから、みんなの前では何食わぬ顔で授業してるの。 爽やかで、軽くて、親しみやすい“笹尾先生”。 まるで、やましい事なんてなにもしてませーん、みたいなツラ。 ウケる。 私にしか分からないのよ。笹尾が、本当は余裕がないなんて。 金曜日の朝は、笹尾の隣を通ったらタバコの匂いが、微かにした。 タバコ、増えたのかな。 「詩ちゃん? うーーたーーーーっ???」 !! ぼーーっとしてて、休み時間、千奈に呼ばれてるの気が付かなかった。 私はニコッと笑ってみせる。 「んー、なに?」 「見て、福田っ。髪、髪!」 言われるがまま、福田さんの昆布頭を見た。 すると、その髪の毛には値札みたいなシールがいくつも引っ付いていて。 「なにあれ。」 私が尋ねれば、千奈が嬉々として答えた。 「さっきね、ミキちゃんたちが投げて引っ付けてたの。 福田、全然気づいてない(笑)」 福田さんへのイジメは、当たり前の光景になっていた。 だれも、止めない。だれも、異を唱えない。だれも、福田さんと一緒に行動しようなんて思わない。 だって、福田さんと一緒に行動するってことは、福田さんのあの気持ち悪い絵が平気ってことだから。 あの見た目に、嫌悪感がないってことだから。 つまり、同類ってことだから。 きっと、福田さんと同じ趣味の子がいれば、福田さんはこんなことにならなかった。 福田さんと同じようにBLが好きな子がいれば、それで盛り上がれる子がこのクラスにいれば、福田さんはこんなにあからさまに虐められることは恐らくなかった。 運よね。 教室という、小さな世界。どんな人がいるかなんて、完全に運任せ。 でも、その運に、殺される人が少なからずいる。
/536ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2384人が本棚に入れています
本棚に追加