匂ひ

9/30
前へ
/536ページ
次へ
それから、席順で一人一人空き教室に呼ばれることになった。 最初の人がクラスを出たあと、男子が物凄く迷惑そうな声をあげた。 「おい、女子ぃ、いい加減にしろよ、犯人さっさと名乗り出ろよ、めんどくせぇなぁ。」 「考査前に問題起こしてんじゃねぇよ、これで考査の範囲まで授業が進まなかったらどーすんだよ。 糞時間の無駄じゃん、これ。」 福田さんがいるにも関わらず、なんの躊躇もなく噴出する文句の数々。 男子の文句に、ミキちゃんが「はぁ?」と声を上げた。 「なんで女子のせいなわけ、男子がやったのかもしれないじゃん。 てかさぁ、」 ギロリ、とミキちゃんが睨んだ先にいるのは、福田さん。 ミキちゃんは頬杖をついたまま、気怠そうに言った。 「そもそも福田さんが協調性ないからこんなことなったんじゃん? 被害者ヅラする前に、自分の性格見直せば?? こんなことされるってことは、自分に問題があるってそろそろ気付けよ(笑) じゃなきゃ、体操服切り刻まれたりしねぇし。」 ミキちゃんの言葉に、周りの女子も、「それな」と同調。 福田さんが、今、どんな顔してるかは分からない。 伏せて、微動だにしない。 男子はミキちゃんの話に少し笑った。 「すげー、それ今言う??(笑)(笑)」 「まあその通りだけど(笑)」 虐められるのは、虐められる側に問題がある。 それは、虐める側の免罪符。 そんなはず、ないのに。 嫌いなら、気に食わないなら、無視をすればいい。 危害を加えていい理由は、なにもない。 じゃあ、今それをここで言えるか? そんなこと、今のこの雰囲気で言える人がいるの? 言えない私は、弱い人間なの? ダメな人間なの? 自らを守ろうとするのは、愚かなの? 道徳の教科書には、きっとイジメに立ち向かえと、そう書いてあるだろう。 でも、立ち向かったあと、何が起きても道徳の教科書は別に助けてくれない。 正しいことを言うだけ言って、そのあとのことなんて道徳の教科書は責任とってくれない。 私は、動けない。
/536ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2383人が本棚に入れています
本棚に追加