匂ひ

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「・・・先生、」 「・・・・ありがと。もういーよ。」 笹尾は私と目を合わせずポツリと言った。 ・・・・・・っ。 「はい。」 黙って、教室を出る。 こんな風に、一人一人に話を聞いて、なにか進展があるの? とても、進展があるようには思えない。 教室に戻ると、みんな先生という存在がいないことを良いことに、自由に、休み時間のように、友達同士で話していた。 まるで、何事もなかったかのように、楽しそうに。 その中で、福田さんだけは伏せて泣いていた。 「あ、詩ちゃーん!次あたしーー!?」 明るい声で、私に話しかけてきた千奈。 笹尾、こんなものなのよ。 あなたが、いない間って。 *** 「詩!」 昼休み。 私が職員室にプリントを出しに行っていると、天が後ろから追いかけてきた。 「天、」 「詩、おでこどうしたの??」 ・・・・・! みんなに気づかれないように、絆創膏も外して、前髪で隠してたのに。 「・・・天以外、気づかなかったよ、この傷。」 私がこういうと、天は悪戯っぽく笑った。 「そりゃ気づくって。俺、詩のこと大好き人間だもんっ。」 そーでしたね、頭狂ってんだろって言いたくなるくらい、私のこと好きだもんね。 私が顔も合わせずに「はは、」と薄く笑っていると、天は私の顔を覗き込んだ。 「で? そのおでこのキズと詩が朝から元気ないのは、関係あんの?」 ほんと、頭狂ってんのかよ。 なんで、いつも目ざといのよ。 「関係ないよ、おでこのキズはちょっと家でぶつけたの。」 「大丈夫?ちょっと見せてみ。」 勝手に、天が私の前髪を上げてきて。 ゾワッと、寒気が走る。 「ちょっ、」 「うわっ、結構キズ深くない!? キズが残らないようにちゃんとしなきゃ ダメだって!きて!保健室行こ!」 天に、腕を引っ張られた。
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