匂ひ

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「んー、気持ち悪いっていうか、」 ピンセットでコットンを摘んで、そこに消毒液をかける天。 そして、こちらを振り返った。 「どーーでもいい。 でも、適当に愛想ふりまいとけば、こーやって何かと融通がきくじゃん?? ちょっと提出物遅れても、許して貰えたりとか。」 「最低。」 「えっ、ひど!」 私の隣に座って、天は苦笑いした。 「ただの処世術じゃん。要領良く生きていくための。 愛想良くしとけば誰も嫌な思いしないし、win-winってやつ? よーし、ちょっと染みるかも。」 天が、私の前髪そっとあげる。 そして、ちょん、ちょんと消毒液をつけたコットンを傷口に当てた。 「っ、」 ・・・染みる。 怪我したのは、土曜。傷口がまだ閉じてないのか。 唇を噛んで痛みに耐えていると、天は愛おしげに私を見つめた。 「でも、詩のことは別。」 「・・・・は?」 私? 天はピンセットをテーブルに置くと、私の頬に手を添えた。 「詩のことだったら、要領良くとか、そんなの、全部ぶっ飛ぶ。 どんだけ面倒臭いことでも、恥ずかしいことでも、痛いことでも、なんでもする。 詩、だいすき。」 吐息混じりに囁いて、唇を重ねてくる天。 天は、舌先で私の上顎をくすぐったり、私の舌の裏をなぞったりして、 それ自体は、悪くない、けど。 「て、んっ、」 勝手にひとりで興奮してるんだから、ほんと、どうしようもない男ね。 心の中で天を見下して、流されるように、天のキスを受け入れる。 天は角度を変えて私を求めつつ、何度も私に愛の言葉を囁いた。 「好き、詩、好きなんだって、」 「詩、っ、」 「だいすき、ねぇ、こっちみて、」 「詩、俺、おかしくなりそう、」 「詩、うたっ、」 「可愛い、」 「詩、好き、ぐちゃぐちゃにしたい、」 ドサッと、ソファに組み敷かれた。 私に跨る天は、顔を真っ赤にして、はぁ、はぁっ、と、呼吸を乱している。 ・・・・・淫乱男。
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