匂ひ

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「・・・何発情してんの。」 淡々と、天に声をかける。 不思議と、天に押し倒されても焦りはしなかった。 そのかわり、こいつ馬鹿じゃねーのって思った。 天はペタリと私の顔の横に手をついて、ゆっくりと覆い被さる。 フーッ、フーッと、興奮しきった吐息を漏らしつつ、ゴクリと天が息を飲んだ。 「詩・・・・っ、」 淫靡な、熱視線。 その視線をかわして、私はせせら笑う。 「めちゃくちゃにしたいって言ったけど、一体なにするわけ?」 どうせ、お前は何も出来ない。 「勝手なことしたら嫌いになる」って言えば、それでおしまい。 天は熱に浮かされた表情で、ゆっくりと口を開いた。 「詩、に、触りたい。 詩の全部が欲しい、全部を、見たいっ・・・」 童貞感丸出しで笑っちゃうんですけど。今のセリフ。 私は、鼻で笑った。 「嫌よ。」 「詩っ、」 「勝手にヤッたら天のこと、大嫌いになるから。」 天の顔が、歪んだ。そして、案の定取り乱す。 「やだ、詩、ごめん、ごめんって、俺のこと嫌いになった? 勝手なこと言ってごめん、詩、やだっ、」 天は私を抱き上げると、すがりつくように私を抱きしめた。 ああ、ほら、またこのパターン。 「詩、怒った?勝手なこと言って怒った? ごめん、詩、気持ち悪いこと言ってごめんっ、」 触りたいだの欲しいだの、見たいだの言ったことが気持ち悪いことだっていうのは分かるのに、 こうやって「嫌いになった?」って何度もしつこく確認することが気持ち悪いことだっていうのは、分かんないのね。 私は抱きしめられたまま保健室の床を眺めていた。 保健室の床ってあんな柄だったんだ。 まじまじと見たことが無かったから、知らなかった。 てか、さっきから天の吐息が首筋にかかってて、やめてくれないかな、そこだけ蒸れる。 「詩、ねえ、何か言ってよ、俺のこと嫌いになった・・・?」 天が、声を震わせながら尋ねてきた。
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